空はどこまでも蒼かった。
そりゃぁもう翼を持った白銀の剣士が突然飛んできてもおかしくないくらいに澄み渡っていた。 だがしかしそれを綺麗だなんて思っている余裕は俺、野茂のび太には無い。 こういう空を楽しむ事が出来るのはそれなりに余裕がある時だけだ。 今は夏である。 加えて俺は合宿で山登りをしている真っ最中だ。 合宿を一緒にやる予定の相手は山の反対側から登ってきていて、頂上で合流と言う事らしい。 だから合流に遅れる訳には行かず、あまり休んでも居られない。 そんな俺に現在余裕があるはずも無く、雲ひとつ無い晴天は気温の上昇に反比例して俺のテンションを下げていく。 だが俺とは逆にテンションが正比例して上昇している二人が居た。 言わずもがな、部長と幸子だ。 「ほんと今日は良い天気ねー☆」 「まったく、合宿日和だね〜♪」 ・・・この元気は一体どこから来るのだろうか、少し分けてほしい。 いや、本当に分けたいのは・・・ 「部長、そんなに元気があるのなら少しは荷物を持ってください・・・!」 そう、この山のような荷物だ。 何故か合宿で必要になると思われる荷物は全て俺が持たされている。 この2泊3日の日程の荷物全てだ。 「それは出来ない」 と、部長は真顔で返してくる。 いかにも真剣な表情なので何か大した理由があるのかと思ってみれば 「君は体力が足りない。そんな程度の力では僕の次の部長は任せられないな」 などと言って来る。 この会話も既に4回目で、1回目にした時に試しに部長に荷物を持たせる事に成功した所、1mmも荷物を持ち上げる事が出来ないで居た。 そもそもなんで研究部?の部長にそんな筋力が必要なのだ。一応文化部じゃないか。 「野茂君、何か大きな勘違いをしているようだね」 と、部長が真剣な表情のまま後を続ける。 「・・・なんですか?」 俺の言葉がぶっきらぼうになるのは仕方のないことだろう。 「研究部?は文化部などではないのだよ」 「何言ってるんですか貴方はついにボケましたかこの天気のせいですかそれともそこの能天気な妖精の影響ですかあもしかしたら 元々おかしかったのかもしれませんねむしろそれが1番可能性高そうですねだって貴方おかしいですもんねあはははは」 そこまで一息に言ってみる。 うーん、我ながら素晴らしい息の長さだ。 だが俺の完璧な意見に思わぬところから反論が入った。 「ちょっと、能天気な妖精って私の事かしら」 そう、幸子・・・じゃない!? 「誰だてめぇは!?」 気付けば部長のすぐ傍らに何故か赤いイメージを受ける怒っているらしい感じの妖精が居た。 因みに幸子は俺の頭の上で髪の毛をひっぱりまくっている。少し痛い。 「今度はてめぇ呼ばわり?貴方、命が惜しくないようね」 と、気付けば赤い妖精は俺の目と鼻の先まで移動していた。 俺は危険な雰囲気を感じ、即座に距離を空けようとする。 だが荷物の重さに負けて実際は無様に転んだだけなのだが。 「あ、ごめんなさい、そんなつもりじゃ・・・」 と、気付けば目の前には青っぽい感じの妖精が居た。 何が何だか解らずにとりあえず空を見上げてみるが当然そこにたこ焼きは無い。 「エレメ、あんまり脅かしちゃ駄目じゃないか」 部長が笑顔に戻ってその妖精に話しかける。どうやらエレメと言う名前らしい。 「あー!あなたもしかして伝説のまてr」 頭の上で俺の髪の毛に絡まった幸子が何か言おうとしたが、緑色に変化したエレメに一瞬で口を塞がれていた。 「幸子ちゃんだったかしら?後でゆっくりお話ししましょうね〜♪」 口を塞がれたまま怯えた様子の幸子が何度もうなずいている。 「だからエレメ、脅かしちゃ駄目だって!」 再度部長のなだめるような声。 正直ちょっと部長の存在を忘れていた。 「えっと・・・エレメさん?失礼をしたのなら謝りますからどうか見えるところに来てくださいな」 俺もちょっと怖かったので下手に出てみる。 「あ、ごめんなさい、今降りますね・・・」 それが良かったのかどうかは解らないがさっきよりもだいぶ落ち着いた話が出来そうだ。 しかし中々降りてこない。 その間髪の毛がとても激しくひっぱられている。非常に痛い! 「あの・・・あんまりひっぱらないでくださたたたたた!」 あまりの痛さに語尾がおかしくなる。 ぶちん♪ 更なる痛みと共に嫌な音がした。 今までこんなにたくさんの髪の毛がいっぺんに抜かれた事は無かった。 あぁ・・・すっげーいてーよ・・・ あまりの痛みに意識が遠のいていく。 しかし冷静な俺が気絶前に考えていた事はあまりにも普通な事だった。 それは。 はげたらやだな。 合宿初日前半、終わり。 |