俺は今教室に居る。
しかし他には誰も居ない。 一体どういう訳かと思ったが時計を見て納得した。 何故ならまだ始業時刻まで一時間以上もあるのだ。 なぜこんな時間に来てしまったのか? その理由は簡単だ。 今日は襲撃が無かったのだ。 最近は襲撃を受ける事が日常の一部になっていたのであらかじめ早い時間に家を出ていたのだ。 そんな訳で今はとても静かだった。 だがそんな時間ももうすぐ終わりを告げるだろう。 理由はうちの学校ではもうすぐ部活の予算折衝があるからだ。 そのため様々な部活が交渉を有利にする為に中途半端なやる気を見せている。 そんな訳でもうすぐ中途半端なやる気を出した運動部達の朝練が始まるのだ。 俺の所属する地学研究部はそんなせこい事はしない。 というか一応文化部だから朝練などやっても大して効果が無いのだ。 「おい太郎、何やってんだ?」 とりあえず読書でも始めようかとしていた俺に後ろから声がかかった。 因みに今読もうとした本は高校生のジャンキー少年が悪魔を召喚し巨大な組織と戦うというなんとも素晴らしいストーリーのものだ。 更に主人公の通り名は『ウィザード』で、俺が読むに相応しい本だ。 一応分類的にはミステリーになっている。 「見ての通り読書の邪魔をされたんだよ」 俺は笑いながら言ってやった。 「じゃあ邪魔ついでだ、ちょっと来い」 と、その男が半笑いで俺に触れた瞬間・・・ 俺は地学研究部の部室に居た。 ご丁寧に椅子も部室のものに変わっていたし、目の前のテーブルの上にはおそらく淹れたてであろう湯気の昇る緑茶が置いてあった。 「おい秋本!一体どういうつもりだ!?」 そう、俺の読書を邪魔しここに連れてきた半笑の男とは秋本だったのだ。 フルネームは秋本鷹司。 転移能力を保有している『ウィザード』の一員だ。 「そう怒るなよ、部長から呼び出しがあったんだよ」 半笑いのままそんなことを言われても余計に腹が立つだけだ。 もういい加減慣れてきたが。 「あの・・・」 そんな時小さな声が聞こえた。 秋本の影になっていて見えなかったがどうやらもう一人居たようだ。 その人物は眼鏡をかけた小柄な女の子だった。 彼女の名前は有松美紗。 地学研究部の会計係にしてアイドル(?)だ。 「あぁ、有松さん、おはようございます」 おそらくは目の前のお茶を淹れておいてくれたのも彼女だろう。 「おはようございます。えっと・・・喧嘩はしないでくださいね?」 そんなことを言われてしまった。 彼女にそんなことを言われてしまってはもうどうしようもない。 ・・・まぁ元々喧嘩と言うほどのものでもなかったのだが。 と、その時部室の扉が開いた。 入ってきたのは円城寺竜介。 この部活の部長を務める人物で相当な切れ者だ。 また、『ウィザード』のメンバーでもありそちらではサブリーダーを務めている。 「皆揃っているようだね」 部長が場を落ち着かせる低い声で言った。 どうやら秋本の言っていたことは嘘ではないようだ。 「一体なんなんですか?随分急でしたけど」 朝っぱらからいきなり連れてこられたのだ、俺の口調がきつくなるのも仕方あるまい。 「うむ」 部長が椅子に座るとすぐに有松さんがお茶を淹れる。 実に気の利く子だ。 「今日集まってもらったのは他でもない。いよいよ来月に迫った夏合宿に関してだ」 夏合宿と言うのはうちの部活の恒例行事で地層などを見学したり化石を探したりまた、天体観測をしたりするための合宿だ。 「今年は今までにない試みだが他校との合同で合宿を行うことになった。相手は県立泉ヶ丘高校の研究部?だ」 なんともまぁ勝手な話だ。 部員の意見など一切関係無しに既に決定していることのようだ。 しかも泉ヶ丘高校といえば伝説の・・・ 「詳しい日程などに関してはまた後日連絡をする。以上」 ちょっと待て何でたったそれだけの連絡をわざわざ朝呼び出してする必要があるんだ? 「部長、なぜわざわざ朝に連絡をする必要があったのですか?」 どうやら秋本も気になったらしい。 有松さんも興味があるのか急須を片付ける手を休めて見ていた。 「そうですよ、それだけならどうせ今日は部活の定例日だったんだから放課後でも良かったじゃないですか」 俺もそう言っておく。 「ふむ、確かにそれでも良かったのかも知れんが君たちの事情を考えると放課後は都合が悪いのではないかと思ったのでね」 今日はこれといって予定は無い。 一体どういう意味だろうか? 「そうか、普通はまだ知らないのだったな。秋元君は大丈夫だったようだが千歳君と有松君はどうやら今日は追試日だったようなのでね」 ・・・・・・追試? 「千歳君は英語を、有松君は数学をそれぞれ落としていたのだよ。まぁ頑張りたまえ」 そういうことか。 部長の情報網は教員の情報までをも把握しているのか。 しかしまさか追試とは。 これも全部『セレブ』の連中が毎朝しつこいからだ・・・・ 折角襲撃の無かった日まで奴等のことを忘れられない太郎であった。 どこかへ続く。 |