俺が夏休みの部活を終え、腹を減らして学校から駅に向う途中、
「あれはなんだ!」 「鳥か!飛行機か!たこ焼きか!?」 なんていまどきアニメでも聞かないような言葉が俺の耳に入ってきた。 しかも最後のたこ焼きってなんだよ、あぁたこ焼き食いてぇなぁとか思って上を見ようとした瞬間・・・ それは目の前に落ちてきた。 丸くてこんがり焼けていて香ばしい香りのするそれは・・・ 「たこ焼きかよ!?」 そう、本当にたこ焼きだったのである。 しかも鰹節まで踊っていて非常に美味しそうですらある。 しかし問題はその大きさである。 直径は1.5mくらいはあるだろうか。 「どんだけでかい蛸が入ってんのかな・・・」 などと言いながら俺はこのたこ焼きを食べてみたい衝動に駆られていた。 なんせ俺は今、腹ペコなのである。 「冷める前に食ってやらねば・・・」 なんて意味の解からない事を言いながら俺はこのたこ焼きに食いついた! 「!!!!」 旨い! 俺はグルメじゃないから良い表現が思いつかないけどとにかく旨い! 今までで一番旨いたこ焼きだ!! 「旨いよ〜!」 しかしまだ表面の蛸のない部分しか食べていない。 俺は早く蛸を食べるべく周りの目も気にせずに食べるペースを上げる! ・・・実はこの時点で既に周りの人は俺を見て逃げていってしまったらしいのだが。 「むしゃむしゃ・・・ん?」 と、ついに今までとは違う歯ごたえのものが現れた!! 俺がそれを噛み千切った瞬間・・・ 「いった〜い!」 巨大たこ焼きの中から悲鳴が聞こえた。 俺は思わず飛びのいてしまった。 「な、なんだぁ!?」 「なんだじゃないわよ!痛いから痛いって言ってるの!」 そう言いながらたこ焼きの中から現れたのは・・・ やっぱり蛸だった。 「ちょっとそこのアンタ!このあたしが剛田幸子だってわかっててこんなことするの!?」 「いや、え〜っと・・・」 知るわけないし。 「じゃあ初対面の蛸にいきなり噛み付いたって訳?あなた、あたしをな めてるの?」 「いえ、食べてました」 俺はこの馬鹿でかい蛸に驚きのあまりまともにツッコミを入れることすら出来なくなってしまっていた。 蛸と言っても某人気猫型ロボットをウィンナーで作りましたみたいな外見をしているのでそれほど怖くはないのがせめてもの救いだ。 そんなことを考えていると蛸が俺の首に巻きつきながら、 「あなた、あたしのことを食べようとしといて謝りもしないつもりなの?」 と言って締め付けてきた。 う〜む、まさにオクトパスホールド。 でも以外と力が弱いので大して痛くはない。 ・・・そのぶん気色悪いが。 「蛸の分際で偉そうに」 少し気を取り戻した俺がそう言うと、 「この際蛸も人も関係ないでしょう」 などと微妙に正論を言ってくる。 しかしたこ焼きの中に居た蛸を食べようとしたからといってなぜ謝る必要があろうか? 俺は謝りたくないので話を逸らす事にした。 「うるせぇなぁ。だいたいなんでたこ焼きが降って来るんだよ?」 と俺が言うと、 「えっ、聞いてくれるの!?」 とか言ってきた。そうとう話したかったのか、心なしか目も輝いているような気もする。 ・・・謝れ云々は早くも忘れてくれたみたいだ。 とにかく彼女?は語り出した。 「私はY.N.1220年の未来から来たの」 ・・・既にそれがいつだかわからん。 「その未来では世界共通語が日本語になっててね、だからこの時代で言 葉が通じるのは日本だけなの」 どうやら未来は英語嫌いな俺にとって非常に都合の良いものになっているらしい。 「だから日本を選んだのよ。あたしは日本人だし」 蛸なのに日本人なのか。 「そして私はこの時代に泥沼のような混沌をもたらすためにやってきた 悪の秘密組織、泥沼えもんのエージェントなのよ!」 ・・・未来では今とは秘密という言葉の持つ意味が違うらしいな。 「そして泥沼計画の第1歩として空からたこ焼き大混乱計画を実行したのよ。それなのに、そのたこ焼きを、食べるなんて、どういうことなのよ!!」 んなこといってキレられても・・・ 「だってたこ焼きって食うもんだろ?」 「む〜、確かにそうだけどさぁ・・・」 悪の秘密組織のエージェントは以外と素直なものらしい。 「だいたいたこ焼きが降ってきたくらいでそんなに混乱するわけねーじゃん」 「じゃあどうすれば良いのよ〜」 くねくねしながらこの蛸は真顔・・・かどうかは解からないが真剣な口調でそう言ってきた。 「そうだなぁ、やっぱり―――」 「そっか!」 せっかく俺が教えてやろうとしているのにこの蛸は大声でさえぎりやがった。 「んだよ?」 「ずっとあなたにくっついてこの時代のことを研究すれば良いのね!?」 俺は愕然とした。 このにゅるにゅる気持悪いのがずっとくっついてくるのかと思ったら声も出なかったね。 「今、あなた気持悪いから勘弁してくれって思ったでしょ?」 ・・・解かってんなら勘弁してくれ。 「大丈夫よ〜、私の本当の身体はこ〜んなに小さくて可愛い・・・」 と、言ってる間に蛸の頭にひびが入ってそこから出てきたものは・・・ 「妖精だから☆」 そう、妖精が出てきたのである。 羽の生えた身長5cmくらいの可愛らしい女の子の妖精だ。 「マジかよ!」 以前からそういったものに興味のあった俺はかなり興奮してしまった。 これからこの可愛い妖精と一緒に居られるかと思うとわくわくするぜ! 「これからヨロシクネ♪」 「喜んで!」 「これであなたも今日から泥沼えもんの仲間入りね★」 「・・・え?」 そんなこんなで俺と幸子との生活は始まってしまうらしい。 おっと、自己紹介がまだだったな。 俺の名は野茂のびた。 いきなり降ってきたたこ焼きに食いつける勇気ある高校2年生だ。 そして今日からは泥沼えもんのエージェントという肩書きも加わることになりそうだ・・・。 第2話を読む。 |