ニャッキ♪ ここは泥沼えもんの第2話〜。 ピンク♪
「あち〜」
俺、野茂のびたは駅へと歩きながらうだっていた。
今年の夏は非常に暑い。
なんだか年々暑くなっているような気もする。
これが世間で騒がれている温暖化というやつだろうか。
「確かに暑いわね〜」
俺の頭の上から賛同の声が上がる。
「この時代がこんなに暑いなんて予想もしてなかったわ」
俺の頭の上に居る小動物…Y.N.1220年の未来から来たと名乗る
この妖精はそう言った。
「未来は暑くないのか?」
俺は温暖化とやらは未来では止まっているのかと思いそう聞いた。
「むしろ寒いくらいね〜。なんて言ったって氷河期に入ってるから」
悪の秘密結社、泥沼えもんのエージェントなのだというこの妖精はあっさりとそう言ってくれた。
そういえば地学の老教諭が『世の中では温暖化、温暖化と騒いでいるが地球全体の歴史から見れば氷河期に向かっているんだから大した問題じゃな〜いんだよ〜』とか独特なイントネーションで教えて下さった気がする。
どうやら先生の言っていた事は正しかったらしい。
「じゃあ温暖化はどうなったんだ?」
「過去に来られるほどの科学力があるのよ?そんなのとっくに解決したわよ」
そういうものなのだろうか。
しかしこの妖精は悪の秘密結社のエージェントである。
迂闊に信じる訳にはいかない。
「おい幸子、それ本当かよ?」
一応聞いてみた。
「う、疑ってるの?ひっどーい!」
この妖精、幸子は棒読み口調でそう言ってきた。
…本当に嘘なのかよ。
さらに幸子は俺の顔の前に移動しながら
「それに幸子だなんてちょっと馴々しくない?ちゃんと剛田さんって呼びなさいよ!」
なんて事を言って来る。
初対面でオクトパスホールドをかけてきたくせに。
「はいはい、ごめんよジャイアン」
「…幸子で良いです」
どうやら未来でも某人気アニメは健在らしく本気で嫌そうな顔をした。
映画のジャイアンは良い奴なのに。
「で、今の話しは全部嘘か?」
俺がそう言うと申し訳なさそうに謝り始めた。
「いや…寒いってとこだけ…。うわーんごめんなさーい、捨てないで〜!」
謝るというか泣き落とし?
しかも捨てないでってなんだ。
「いや、泣くなよ、怒ってないから」
可愛い妖精に泣かれて心優しい博愛主義の俺が許さずにいられる訳が無い。
「うっうっうっ、本当よね?」
本当に悪のエージェントなのかと言いたくなるほど気が弱いらしい。
「お前、本当に悪のエージェントなのか?」
聞いてしまった。
「そ、それは嘘じゃ無いもん!」
ちょっと怒ったように言って来る。
「どうして嘘なんて着いたんだ?」
「混乱を招こうと思って…」
そんな程度の嘘ではそれ程混乱などしない。
なんていじらしい妖精だろうか。
しかし俺は今がチャンスだとばかりに気になった事を聞きまくる事にした。
「俺、嘘嫌いなんだよ」
「え〜ん、もう言わないから〜」
「俺の質問に全部答えたら許してやる」
「ホントよね?答えるわ」
…単純な奴だ。
そもそもなんで俺に嫌われたくないんだろうか?
幸子とは数分前に遭遇したばかりだというのに。
まぁともかく質問の準備は整った。
「じゃあまず…最初の蛸ってなんなんだ?」
「あれは泥沼えもんのマスコットよ」
「なんでそんなの着てたんだ?」
「たこ焼きで降って来ようと思ったから…」
…よくたこ焼きが思い付いたもんだ。
まてよ、じゃあなんで…
「噛まれて痛がった理由は?」
ただのマスコットだったなら痛いはずは無いだろう。
「あれは…ノリよ!」
そういう幸子の笑顔が可愛いからまた憎めない。
しかしノリで蛸に絡み付かれたのか俺は。
「…じゃあ次の質問。未来から来たって言ってたけど…未来人はみんな妖精なのか?」
「そんな訳ないじゃない。どんな進化したらそうなるのよ」
笑いながら幸子は続けた。
「あたしたち妖精は元々は別の次元に居たんだけど未来でおっきな時空震があってね」
…なんだか難しい話しになりそうだ。
「いくつかの次元が自由に行ったり来たり出来るようになったのよ」
案外そうでもなかったな。
要するに人間も妖精も両方居るって事か。
「いくつかのって事は妖精以外にも居るのか?」
「あ、鋭いわね。(さすがにあたしが…)」
何かぼそぼそ言っているが良く聞こえなかった。
それも気になったのだが俺はそれ以上に話の続きが聞きたかった。
「おい、どうなんだよ」
「う、うん。居るわよ。猫とか鳩とかアロマノカリスとか…」
「おぉ!すげぇ!アロマノカリスまで居るのか!」
…ちなみにアロマノカリスとはかつてまだ陸上生物が居なかった頃に最強を誇ったカニとエビを混ぜ合わせたような生き物である。
当然既に絶滅しているのだがその理由は不明である。
「他にもなんか聞きたい事ある?」
「まだまだあるが…とりあえずあと一つだけ。なんで俺に嫌われたくないんだ?」
これが最大の疑問だ。
まだ会ってからそれ程経ってもいないのに捨てないでとか言われるくらいに俺になつく理由はなんだ?
「そ、そんなの聞かないでよぅ!」
顔を赤らめながら幸子が言う。
あまりにも可愛かったので俺はさらにからかう事にした。
「言わないと捨てるぞ」
…からかうと言うより脅しだったかも知れない。
「う〜ん、しょうがないかぁ…。それは…」
…まさか告白でもされるんだろうか。
種族を超えた恋愛。
まぁ多少はひかれるものもある。
「あなたが泥沼えもんのエージェント仲間だからよ☆」
なんだそれは。
恋愛はどこに行った。
…俺が勝手に考えてただけか。
しかしエージェントになって何かメリットがあるのだろうか?
「報酬はあるのか?」
幸子は少し考えてから
「未来に関する知識なんてどうかしら?」
と言った。
確かに悪くは無い。
非常に興味深い条件ですらある。
「良いだろう。やってやる」
俺は不敵に笑いながらそう言った。


この瞬間から俺は自分の意志で泥沼えもんのエージェントになったのだった。
その直後に先程食べた蛸のマスコットによって腹痛を起こしてしまったのはいずれ笑い話にでもするとしよう。



第3話を読む。