ニャッキ♪ ここは泥沼えもんの第3話〜。 ピンク♪
雨が降りそうな天気だった。
こんな日には外出しないに限るのだが今日は部活の日なのでそういう訳にもいかない。
というかもう学校まで来てしまっているから後の祭というやつだ。
埼玉県立泉ヶ丘高校。
それが俺の通う学校だ。
このあたりには泉も丘もないしなんでこんな名前なのかは知らない。
ただ単純に偏差値的に俺に調度良かったから入っただけの高校だ。
俺の偏差値?たいしたことはないのでそれは言わないでおこう。
「ねぇ、いい加減教えてよ〜」
俺が肩から下げているトートバッグの縁に座っていた幸子がなにやら問い掛けてきた。
なぜこいつを連れてきたか?そんなのは家に一人残すのが心配だったからに決まっている。
「何の事だよ?」
「あんたの入ってる部活の事よ。いったい何部に入ってるのよ〜」
「当ててみろって」
「む〜」
・・・・因みにこの会話は既に14回目だ。
そろそろ教えてやっても良いのかもしれないが、考え込んだり悩んだりしている幸子が可愛いのでついつい繰り返してしまうのだ。
だがそんなやりとりも終わりだ。
なぜなら部室に着いたからだ。
そこにある表札には・・・・・
「研究部?」
そう、そこには『研究部?』と書かれていた。
別に幸子が疑問系で言ったわけではない。
表札に本当に『研究部?』と書かれていたのだ。
「って何よこれ?」
「何とはなんだ」
「この最後のハテナはなんなのよ!」
「疑問系を表す記号だと思うぞ。未来では違うのか?」
「そういう意味じゃなくって!なんで付いてるのかって事よ!」
・・・・解かっていてからかっているのは言うまでも無い。
まったく可愛いやつだ。
「なんだそのことか。それはな・・・・」
「それは僕が説明するよ」
と、部室の中から現れた第三者が口を挟んだ。
「部長!」
そう、その第三者とは我等が『研究部?』の部長、橘 陽介だった。
「ん?野茂くん、今、誰と話してたの?」
「え?あ、あぁえっとぉ・・・・」
俺は迷った。
確かに部長は素晴らしい人だし尊敬もしている。
だがいかんせん『研究部?』の部長なのだ。
幸子のような妖精を見れば研究したいと思ってしまうかもしれない。
「なにやってんのよ?あたしと話してたんでしょ!」
だが幸子に俺の沈黙の意味は通じなかったようだ。
「あぁ、妖精と話していたのか。ついに野茂くんにも見えるようになったんだね」
しかし部長のリアクションは軽かった。
「あれ?驚かないんですねぇ・・・。っていうか『も』!?」
俺は驚いた。
部長は驚かなかったようだが俺は驚いた。
野茂くんもということは部長には前から見えていたということだろうか?
「言わなかったっけ?」
「・・・・聞いてません」
「どうでも良いけどあなた誰?」
忘れられていた幸子が部長に問い掛けた。
「あぁごめん、僕は橘 陽介。この『研究部?』の部長だよ」
「あたしは剛田 幸子、Y.N.1220年の未来から来たの」
「そっか、未来から来たのか。どうりで僕のことを知らない訳だ。これでも結構妖精とかには有名なんだけどね」
などと自己紹介を始めた。
しかし、未来から来た妖精などと聞いても相変わらず部長に驚いた様子は無い。
いったいこの人はどんな人生を歩んできたんだろうね・・・。
「で、最後のハテナはどういう意味なの?」
幸子が本題に戻した。
・・・実は俺はそんな会話は忘れていたのだが。
「あれはね、初代の部長が『ただの研究部じゃ目立たないし普通過ぎてつまんないから普通じゃなくする為にハテナでも付けようか?』って言って付けたんだよ」
と、部長は説明した。
だが俺は知っている。
その初代部長というのが現部長、橘さん本人であると言う事を。
「へぇ〜、素敵な理由ね☆」
幸子は感動したらしい。
よく見れば目に光るものさえ見える。
普通こんなの聞いても泣かないと思うんだけどな・・・・。
まぁ俺も理由を聞いて賛同して入部してしまったのだから大して変わらないか。
「解かってくれて嬉しいよ」
部長もニコニコ顔だ。
そりゃあそうだろう、そう言ったのは自分なんだから。
「でも何を研究してるの?」
もっともな問いかけだ。
これにも部長(創立者)が応えた。
「『研究部?』では創立以来部員が面白そうだと思ったことを自由に研究してるんだよ」
「たとえば今までには何を研究したの?」
「ん〜たとえば人間はどういう会話をしているときに楽しいと感じるか、とかだね」
「へぇ、その研究は未来でも続いてるわよ」
「そうなのかい?」
「うん、人間っていうのはどんどん変化していくからいつまでたっても
研究が終わらないのよ」
「なるほど・・・・」
などと二人で話し始めてしまった。
とりあえず中入れてくれないかなぁなどと考えていると、
「まぁ暑いからとりあえず中に入ろうか」
と部長が言ってくれた。
この人は人の心が読めるんじゃないだろうか。
もしもそうだったとしても俺はそれほど驚かないかも知れない。
「じゃあ驚かないでね?」
「ってホントに読めるんですか!!」
マジで驚いた。
俺は産まれて初めて心臓が飛び出るような思いというやつをした。
空からたこ焼きが降ってきた時もこれほどは驚かなかった。
「何の話し?」
「いや、野茂くんの考えてることを当ててみたんだけどそれが見事に当たったらしくてね」
部長が笑いながらあっさりとそう言ってくれる。
「へぇ〜」
「・・・・」
どうでもよさそうな幸子を気にせずに俺は心の中で部長に対して悪態をつきまくった。
もしも本人が聞いたら絶対に怒るであろうことを。
「野茂くん、今僕のことを侮辱してるでしょ?」
「うわ〜やっぱり読めるんだ〜!!」
「君は解かりやすいな〜、そんなの誰だって解かるって。まぁ入りなよ」
部室のドアを開けながら部長が言う。
「ようこそ幸子ちゃん。我等が『研究部?』へ!」



第4話を読む。