ニャッキ♪ ここはウィザード、VSサラリーマン〜。 ピンク♪
俺の名は千歳太郎。
友人の書いた小説に出て来る『蒼穹』の称号をもつウィザードと同じような人生を送る高校2年生だ。
もっとも完全に同じ訳じゃない。
まず称号なんてないし、『ウィザード』は俺の所属する組織の名称であって個人に対して使うのは相応しくない。
まぁその辺りの細かい事は追々話すとしよう。
とにかく今はそんな事を話している余裕はない。
なぜなら俺は今まさにあの小説の如く戦っているからだ。

ドゴォン!
重々しい銃撃音が日の高くなり始めた街に響き渡る。
しかしいったいどれ程大きな口径の銃なのだろうか。
吐き出された弾丸は電柱は根元からへし折り、後ろに在ったブロック塀をも破砕した。
「冗談じゃねえっての…」
太郎がそう愚痴るのも無理はない。
こんな物騒な銃撃にさらされ続けてかれこれ1時間になる。
しかも市街地だというのに警察どころか誰も出て来ない。
「絶対に『セレブ』の連中だよな」
『セレブ』と言うのは太郎の所属する組織、『ウィザード』と敵対する組織の一つだ。
古という二人姉妹が統轄する組織で金にものを言わせてかなりの術者を雇っている。
今回もその雇われた術者が人払いの術を使っているのだろう。
恐らくこの銃撃を行っているのも術者だ。
この破壊力は通常ではありえないし、なにより普通の銃で1時間以上もこんな弾丸を打ち続けられるはずがない。
「そろそろなんとかしないとまた2時間目にも間に合わないな」
太郎がこういった襲撃を受けるのはよくある事だ。
今日も学校に行く途中で制服を着ている。
もうすぐ夏休みなので当然夏服だ。
しかし度重なる襲撃のせいで太郎は出席率が危なくなっている。
「しっかしどうしたもんかねぇ」
敵の攻撃を逃れるのも容易なことでは無い。
物陰に隠れても隠れた物ごと吹き飛ばされるし、壊れた物の破片さえもが凶器となる。
恐らく太郎ほど場慣れした人間で無ければ5分と保たなかっただろう。
だが太郎としても打つ手が無い。
太郎の保有する能力は近接戦闘に於ては最強クラスなのだが今のような状況ではどうしようもない。
そこで仕方無く太郎は援軍を待っているのだ。
「あっ、1時間目終わっちまったよ…」
「よう、待たせたな」
突然太郎の真横に太郎と同じ制服を着た青年が現れた。
しかも手にはシャーペンを持っている。
「遅いぜ秋本」
「悪い、授業中だったんだ」
秋本と呼ばれた青年は手にしたシャーペンに今気付いたらしく苦笑いをしながらそれを胸ポケットに入れた。
「あと7分で終わらせれば2時間目に間に合う!早く!」
「元よりそのつもりだ。行くぞ」
次の瞬間彼らの足下のアスファルトが砕け散った。
『セレブ』の刺客の弾丸だ。
だが、二人の姿はすでにそこにない。
二人が次の瞬間現れたのはそこから200mほど離れた曲がり角だった。
そこにはサラリーマン風の男が立っていた。
その手には大型の自動式拳銃が握られており、この男が刺客なのは間違いないだろう。
そこに現れた時、太郎の手には一振りの槍が握られていた。
あの小説と同じ蒼く輝く槍が。
「空き王手でそのまま詰みって感じかな。頼む、秋本」
そう言うと太郎と秋本はまたしても消えた。
その数秒後、サラリーマン風の男はくずおれた。
その手にかつて拳銃だった残骸を握ったまま・・・・。

目を開けるとそこは俺の見なれた場所だった。
ここは誉野高校、地学研究部の部室だ。
俺や秋本はこの部活の部員なのだ。
「やばい、急ごう」
秋本がそう言いながら部室を出て行く。
時計を見ると2時間目まであと1分しかなかったので俺も急いで後を追った。
しかしこれでいったい何度目の襲撃だったのだろうか。
いい加減、反撃の1つもしないと奴等もつけあがる一方だな・・・。
そんなことを考えていた俺だったが次の時間が英語の授業だという事を思い出して陰鬱な気分になってしまうのだった。



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